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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1009号 判決 1970年6月02日

上告人

住川博

外一名

代理人

堀口嘉平太

被上告人

蜂巣高義

代理人

安藤光義

主文

原判決中上告人湯浅に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

上告人住川の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人住川の負担とする。

理由

上告代理人堀口嘉平太の上告理由第一点および第二点について。

上告人住川は、金融機関から融資を受けるため福島秀治から預かつた登記済証、委任状、印鑑証明書を使用して、本件土地について所有権を取得していないにもかかわらず、原判決の別紙(2)の登記を経由したものである旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではない。所論は、原審の専権に属する事実の認定の非難するが、独自の見解を述べるもので、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第三点について。

原審の確定したところによれば、被上告人は、融資を受けるため、福島秀治と通謀して、本件土地の所有権を同人に移転する旨の契約を仮装し、それに基づき、被上告人から福島秀治への所有権移転登記を経由し、上告人住川は、福島秀治に対し融資をあつせんすると称して同人の承諾のもとに同人から本件土地の登記済証、登記手続委任状、印鑑証明書を預かり、同人から右土地の所有権を取得していないのにかかわらず、右書類により同人から上告人住川への所有権移転登記を経由し、さらに、上告人湯浅は、上告人住川から右土地を買い受け、代金の支払を完了し、本件土地につき所有権移転請求権保全の仮登記を経由したというのである。

ところで、甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について甲乙間に売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合、その登記権利者である乙がさらに丙に対し融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、これらの書類により丙が乙から丙への所有権移転登記を経由したときは、甲は、丙の所有権取得登記の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗できないと解すべきであり、このような場合、乙に対し所有権移転登記の外観を仮装した甲は、乙から右登記名義を取り戻さないかぎり、さらに乙の意思に基づいて登記済証、登記委任状、印鑑証明書等が文付され、これらの書類により丙のため経由された所有権取得登記を信頼した善意無過失の第三者に対して責に任ずべきものといわなければならない。それは民法九四条二項、同法一一〇条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請に応ずるゆえんだからである(最高裁判所昭和四一年(オ)第二三八号、同四三年一〇月一七日第一小法廷判決、民集二二巻一〇号二一八八頁参照)。

叙上の見地に立つて本件をみるに、本件土地については、被上告人から福島秀治に所有権移転登記が仮装された後、同人から上告人住川に交付された登記済証、委任状、印鑑証明書等に基づき、登記簿上同人から上告人住川に所有権移転登記がなされ、上告人湯浅は、上告人住川から右土地を買い受け、代金の支払を完了し、所有権移転請求権保全の仮登記を経由しているのであるから、原審は、右見地に立つて本件を釈明し、上告人湯浅が本件土地の取得につき善意無過失であつたかどうか、すなわち、被上告人は上告人住川の本件土地の所有権取得の無効をもつて上告人湯浅に対抗できるかどうかについて審理すべきであつたのである。しかるに、原審は、この点につきなんら釈明するところなく、福島秀治は本件土地の所有権を被上告人から取得せず、上告人住川も右土地の所有権を福島秀治から取得したものでないから、上告人湯浅が上告人住川から右土地を買い受けたことは認められるが、上告人湯浅も右土地の所有権を取得することができないとして、本訴請求を認容しているのであつて、前記説示に徴すれば、右原審の判断には、審理不尽の違法があるものといわなければならない。したがつて、上告人湯浅が民法九四条二項の解釈として本件土地に対する被上告人の所有権を争い、前記所有権移転請求権保全の仮登記が有効であると主張する論旨は、理由があり、原判決は、この部分につき破棄を免れない。

よつて、右の点についてさらに審理させるため、原判決中上告人湯浅に関する部分を破棄し、上告人住川の上告は棄却することとし、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(関根小郷 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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